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個人的な文芸創作ブログです。

(最新更新日:2022年2月9日 掲載日:2021年10月14日)

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個人的に書いた文芸作品?のようなものを掲載しています。短編小説、ショートショート(小話)、エッセイ、紀行文、実録、ドキュメント(記録文)などです。

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「けむし」

ある日、私は昼下がりの電車に乗りました。

私は歩合のセールスマン、あるお客様に営業に行くために自宅近くの駅から乗車しました。

電車は空いていました。
かなり空席があります。
ここのところ本格的に暑くなってきたので出来れば冷房の風の来る席でのんびり座っていきたいところだったので、「ああ、よかった」と思いました。

ドアの横の席はあいにく塞がっていましたが、逆に冷房の通風口のある真ん中あたりは余裕がありました。

まず乗車口側があいていたので座ろうとすると、

「あれ?」

なにか黒っぽい細長い小さなものが座席の上に乗っているように見えました。
「何だろう?」

ゴミかな?毛糸くずかもしれないな、と思いました。
でも、もしかしたら?、虫?、いや、けむし?

幸い反対側もかなり余裕があったのでそちらに座りました。

一回気になってしまうと不思議なもので、座っていてもその「黒い細長い小さな物体」がどうしても気になります。
よくみるとますます「けむし」に見えてきます。

でもまったく動きません。

そうこうしているうちに次の駅に到着、車内にはかなりの人が乗り込んできました。
女性が一人この空いた空間に目をつけたのか、やってきて座ろうとしました。

「???・・・」
女性は当然一人なので無言ですが、あきらかに「黒い細長い小さな物体」に気付き躊躇しました。

そしてドア側にもどり人が座っている間の席に座りました。

「黒い細長い小さな物体」はまったく動きませんが、よく観察すると皆おおかた気付いているようです。
もしかしたら私が乗車する前も同じ光景が繰り返されていたのかもしれません。

そして次の駅で若い男性が乗車してきました。
彼はあらかじめ空席があるこの空間に気付いていたようで、乗車すると勢いよくこの「けむし」のいる席に突進してきました。

私は心の中で、(そこはだめ!きたらけむしが・・)
といのりました。

彼は座る寸前に、「おーとっとっとっ」という感じで気付きました。

「おおぉ、あぶなかった」という感じでその隣の席に座りました。

このころになると電車はほとんど席が埋まってしまい、まだどんどん混み合いそうです。

そして次の駅に。

今度はまた女性がこの席に座ろうとやってきました。

「・・・・・」

女性はすぐ「けむし」に気が付きました。
そして気まずそうな表情をうかべよそのドアの方に移動してしまいました。

もう一刻の猶予もなくなりました。
もしこの「けむし」に気が付かない人が乗ってきたらどうしよう。

(声をかけてあげようか、いや声をかけてもしけむしでなかったらどうしよう・・)

もうこうなると仕事のことより、この「けむし」のことが気になってどうにもならなくなりました。

そもそもけむしはどうやってここにやってきたのでしょうか?
やはりだれかの体やかばんに付いて来たのか?

そう考えるのが一番自然ですが、もしかしたら自力でやってきたのかもしれません。

やはりこの猛暑です。「けむし」も暑いに決まっています。
けむしは「おおっ、ここは冷房が入っているぞ。ここにしばらく厄介になるか!」
そんなことを言っていたかもしれません。

そんなことを考えているうちに、電車は容赦なく次の駅に到着しました。
いよいよ大変なことになるかもしれません。

ドアが開くと若いイケメンのサラリーマンが乗車してきました。
彼はアイフォンを片手にこちらにやってきました。
そしてこの「けむし」の席に近づいてきました。

(ああっ!そこはだめ!、けむしが・・)

私は心の中で叫びました。他の乗客も多分同じ気持ちだったと思います。
しかしだれひとり言葉を発するものはいませんでした。

彼はあまり周りなど気にしないタイプみたいで、これから座ろうとする座席を見ようともしませんでした。

(あああっ、だめ!!)

この区域の車内のあちこちから心の叫びが上がりました。
彼はまったく気にすることなく・・
「どすんっ」

(あああああああ!! やっちゃった~っ)

座った後も彼はまったく気にすることもなくアイフォンに夢中でした。

彼はどこへ行くのでしょうか?

   ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

これから取引先に行って、
「それでは、この内容でよろしいでしょうか?」

などとプレゼンや契約を決めて、座席から立ち上がり後を向いてドアの方に向かいます。

後ろ向きに歩く人はまれですから、当然後姿が見えてしまいます。

送りに行く取引先の人は後から付いて彼を見送りに行きます。

「あれ?」「何だろう?」

「黒い細長い、しかもぺッタンコになったもの」がズボンのお尻のところに貼り付いています。
「虫?」

取引先の人もなかなかそれを言えません。虫かどうかもわからないし、もしかしたら・・?
いろいろ想像が広がってしまいます。

皆がそう思っているのにも気付かず、彼はさっそうと帰路につきます。

「よし!ここの契約も決まったし、今日はいい日だな!」

そして彼は会社が終わり、彼女と待ち合わせです。

彼女は最初はいつもどおり楽しくアフター5ぼデートを楽しんでいましたが、

やがて彼は「ちょっとトイレに行ってくる」と席を立ちます。

「あれ?」

彼女は後を向いた彼の後姿を見て、ズボンのお尻のところに付いた「黒い細長い、しかもぺッタンコになったもの」に気付きます。

「何だろう? 虫?。それとももしかしたら・・」

トイレから彼が戻ってきました。
運悪く彼は長いトイレに行っていたようです。

彼女は急に気まずくなり、何も聞けなくなってしまいました。

さらにだんだん食欲も失せてきました。

「あ、私今日ちょっと早く帰らなくちゃいけないの、ごめんね」

彼女はデートもほどほどに彼と別れて帰ってしまいました。

「あれは何だったのかしら?」

こうなるとわからないことが拍車をかけてなおさら気になってきます。
その日以来、彼女は彼のことを考えるだけでそのことが浮かんできて忘れられなくなってしまいました。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

と、こんなことになってしまうのはさけられそうにありません。

(やはり教えてあげるべきだった・・、いやもしけむしでなかったら・・)
思いが交錯しました。

毛虫のためにもなるのですが、私はあれが毛虫でないことを祈っています。

このように考えると人間はたまたま電車で出会った「毛虫」のために人生の一部が変わってしまうこともありえないことではないということです。
もちろん毛虫自身も大きな災難になってしまうことなですが・・。

彼は元気にしているのでしょうか?
それとも・・・


下記の記事はタウンクリニックドットコム・時代文化ネットのサイト管理人日記「ぶらぶらうだううだ」(旧穴狙い千ちゃんの旅行記2)に2011年6月27日に掲載された記事を移設したものです。

※なお一部は現在のモラルや法律などに抵触しないように、また内容的に改修したほうがいいと判断した場合は一部修正することがありますことをご承知おきください。

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「街のつわものたち・はくたかの女性」

世の中には本当にいろいろな人たちがいます。
今日は私の本籍地(結婚までの)の金沢への道中で出会った、印象に残った人たちのことを紹介します・・

私の家は北陸の家系です。親戚も多く、今でも金沢のお寺の檀家なので頻繁に金沢に行きます。

いつも往復は新幹線で越後湯沢乗換え、特急はくたかを利用します。
※まだ北陸新幹線開通前の話です

何年か前に家の用事で金沢に行った、帰りのこと
その時も用事を終え、金沢からまだガラガラのはくたかに乗車しました。

いつも同じパターンなのですが、駅でスポーツ新聞とお茶と福正宗という地酒のワンカップを買い乗り込みます。

始発駅なので少し前から乗車できるので、発車前からスポーツ新聞を読みながら酒をちびりちびりと飲むのが習慣で、このときもそんなひとときを楽しんでいました。

と、発車間際に女の人が急いだ感じで乗ってきました。

そして私の隣の空席に座りました。年のころは40歳前後でしょうか?
「あ、隣の席なんだ」
と思いましたが、普通は女性は話しかけられたりするのを嫌う方が多いと思うので、必要がなければ話しかけないようにしていました。

しかしその人は違うみたいで、席についてしばらくすると、
「隣なんで、よろしくね」
みたいなことを言って話しかけてきました。

「え?」
少し戸惑いましたが、
「はい、こちらこそ」
と社交辞令気味に答えておきました。

実は私はいつも一人で列車に乗るときはたいていウォークマンを聞いています。
その時もそうしていました。

しかし彼女はそんなことはお構いなしに、また話しかけてきました。
「私は○○○から来てたのよ。いろいろ用事があってね。金沢は初めてで~~~~、~~」
といきなり自分のことを話し始めました。

積極的な人だな・・、と思いながら、話しかけられたので無視するわけにはいかないので
「へー、そうですか。たいへんですね」
などと当たり障りのない程度の返事をしていました。

「あなたは?」
彼女は今度は唐突に聞いてきました。

え?え?
いきなり切り込まれたので少し驚きましたが、なんとか動揺を押さえつつ・・
「私は親戚の用事で来ているんですよ」
というようなことを答えておきました。

「あ、そう。それでね私は金沢が初めてだから~~~~~~・・・・・」
とまた延々と話を始めました。

そんな感じでしばらく話に付き合っていると、車掌さんが検察にやってきました。

私たちのところまでくると、
彼女はきっぷを渡しました。

車掌さんは
「あれ、これこっちの反対側の席ですよ」
と言いました。
「まあ、今空いているから乗ってきたら替わってね」

彼女はしばらくそこにいました。相変わらず話を続けていました。
話はどんどん移っていき、たしか△△地方の風習がどう、とかそんな話になっていました。

ほどなく列車は高岡に着きました。
はくたかは金沢で空いていても、たいてい高岡、富山でかなりの人が乗り満席に近い状態になります。

この日も高岡でかなりの人が乗ってきました。

そしてやはり彼女の座っている席の人も乗ってきたのです。
「それじゃ、どうも」
彼女はそそくさと本来の自分の席に移動しました。

ちょうど私の席と通路を隔てて反対側です。

列車はすぐ発車しました。

やっと長い話から開放されて、さて続きの酒を飲みながら音楽を聴こうと準備をしていた時です。

「私は○○○から来てたのよ。いろいろ用事があってね。金沢は初めてで~~~~、~~」
彼女は先程とまったく同じことを、まったく同じようにまた隣に居合わせたお客さんに話し始めたのです。

とにかくびっくりしました。
また最後まで話すのかな?
さらに、
また新幹線でもやるのかな?


下記の記事はタウンクリニックドットコム・時代文化ネットのサイト管理人日記「ぶらぶらうだううだ」(旧穴狙い千ちゃんの旅行記2)に2011年10月28日に掲載された記事の前半の作品を移設したものです。

※なお一部は現在のモラルや法律などに抵触しないように、また内容的に改修したほうがいいと判断した場合は一部修正することがありますことをご承知おきください。

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